白色 LED 用の新しい赤色蛍光体の発見

2017年08月25日 研究

 熊田伸弘教授、武井貴弘教授、柳田さやか助教らの 研究グループは、白色 LED 用の新しい赤色蛍光体を発見しました。 本研究成果は、平成29年9月19日(火)~21日(木)に、神戸大学六甲台地区(兵 庫県神戸市灘区鶴甲1-2-1)で開催される、公益社団法人日本セラミック協会主催「第 30回秋季シンポジウム」にて発表されます。

 

本研究の社会的意義

 LED 発光装置は従来の蛍光灯などの発光装置と比べて高輝度かつ高効率のため幅広く普 及していますが、さらなる高効率化と高演色性を図るためには LED 発光装置に使われてい る蛍光体の開発が不可欠です。本研究では従来の赤色蛍光体と比べて残光時間が短い新し い赤色蛍光体を発見しました。

 

本研究の背景

 白色 LED は図 1 に示すように青色 LED チップ上に緑色蛍光体、赤色蛍光体および 封止材を配置させて発光させます。その中 で赤色蛍光体には、主に Eu2+を賦活した窒 化物系の蛍光体が使われています。さらな る高効率化と高演色性を図るために人間の 目の視感度が高い波長近傍での狭帯域発光 を示す赤色蛍光体の実装が求められており、 そのための蛍光体として Mn4+を賦活した K2SiF6:Mn4+などの金属フッ化物が提案されています。本研究では新たに狭帯域赤色発光を プレスリリース 白色 LED 用の新しい赤色蛍光体の発見 2 示すフッ化物である KNaMF7:Mn4+(M : Nb, Ta)を発見し、その結晶構造を明らかにすると ともに、その蛍光特性を調べました。

 

方法と結果

 今回新たに発見したKNaMF7:Mn4+(M : Nb, Ta)は KMO3、NaF および KMnO4 を 出発物質として HF 水溶液を用いた水熱 反応によって合成することができました。 図 2 に KNaMF7:の結晶構造を示します。 従来、Mn4+賦活金属フッ化物の母体は、4 価金属や 3 価金属を含むことが主でした が、今回、新たに発見した母体 KNaMF7 は、5 価金属を含むフッ化物です。図 3 に KaNaNbF7:Mn4+の励起および発光スペ クトルを示します。KNaMF7:Mn4+(M : Nb, Ta)は青色励起可能で緑色の吸収が少なく、 発光ピーク波長 627nm、半値幅 10nm の 狭 帯 域 赤 色 発 光 を 示 し ま す 。 KNaMF7:Mn4+(M : Nb, Ta)の発光強度は K2SiF6:Mn4+の 70%程度でしたが、その残 光時間は 3.0∼3.5 ms で、K2SiF6:Mn4+の 7ms と比べて短いので画像表示装置への 応用に有利であると考えられます。 今回発表の新しい赤色蛍光体について は特許出願済です。

 

今後の展開

 今回この新しい赤色蛍光体について、その結晶構造と蛍光特性を明らかにしました。蛍 光体ではその粒子の大きさや形を変化させることで蛍光特性を向上させることができるの で、白色 LED に使うために最適な粒子状態の赤色蛍光体を作製し、白色 LED への実装に 向けた研究を進めていきます。

 

用語説明

白色 LED:LED は電気を流すことで発光する半導体のことです。白色の発光を得るため には青色 LED+黄色蛍光体あるいは青色 LED+赤色蛍光体+緑色蛍光体の組み合わせが 使われています。

蛍光体:外部からの光のエネルギーを吸収して異なるエネルギーの光を放出する物質。

水熱反応:高温高圧の熱水下で行われる化合物の合成手法。人工水晶やナノ材料の合成 等に幅広く用いられている。

 

研究発表情報

発表会場:公益社団法人日本セラミック協会主催「第30回秋季シンポジウム」

発表日時:平成29年9月20日(水)9時20分 講演タイトル: LED 用新規赤色蛍光体 KNaMF7:Mn4+(M : Nb, Ta)の結晶構造解析および蛍光特性

講演者:山梨大学クリスタル科学研究センター 熊田伸弘教授、武井貴弘教授、柳田さや か助教、三菱ケミカル㈱ 洪 炳哲主任研究員

 

【お問い合わせ先】

(研究に関すること)山梨大学クリスタル科学研究センター 教授 熊田 伸弘(くまだ のぶひろ) TEL:055-220-8615 E-mail:kumada@yamanashi.ac.jp

(広報に関すること)山梨大学総務部総務課広報企画室 TEL:055-220-8005 E-mail:koho@yamanashi.ac.jp