単結晶育成方法
当研究室で用いている主な単結晶育成方法についてその概略を説明します。
・浮遊帯域溶融法
・溶媒移動浮遊帯域溶融法
・フラックス法
他にも新規単結晶育成方法を開発しています。
浮遊帯域溶融法(Floating Zone : FZ) 法
浮遊帯域溶融 (Floating Zone: FZ) 法とは、原料の一部を溶融して原料棒と種結晶との間に形成させた溶融帯を表面張力によって保持し、この溶融帯に対して原料棒と種結晶を鉛直下向きに移動させることで、原料を供給しながら結晶化させて単結晶を育成する方法である。
FZ 法の特長は、るつぼを用いないことであり、るつぼ材からの不純物の混入がないことや高融点物質の高純度な単結晶が育成できることである。また、るつぼに依存しないため種々の育成雰囲気下で結晶育成が可能といった特徴を有する。図1に FZ 法の概略図と特長を示す。
図1 FZ法の概略図と特長
溶媒移動浮遊帯域溶融 (Traveling Solvent Floating Zone : TSFZ) 法
溶媒移動浮遊帯域溶融 (Traveling Solvent Floating Zone : TSFZ) 法とは、溶融帯部分に原料組成とは異なる溶媒を用いた FZ 法であり、原料棒と種結晶との間に挟んだ溶媒を溶融させて溶融帯を形成して、FZ 法と同様の操作により単結晶を育成する方法である。
TSFZ 法の特長は、低融点の溶媒を用いるため育成温度の低温化によって、高温で蒸気圧の高い元素から構成される化合物の単結晶の育成ができる。また、分解溶融化合物の単結晶育成が可能である。
図2 TSFZ 法の概略図と特長
図2を用いて分解溶融化合物 AB の状態図と育成模式図を基に TSFZ 法の原理について説明する。状態図から化合物 AB は、温度 Tp 以上で固相 A と液相に分解することがわかる。このような化合物を分解溶融化合物という。分解溶融化合物 AB は温度 Tp 以上で固相 A と液相に分解溶融し、また、 Tp-Te 間の温度範囲において p-e 間の組成範囲の液相と平衡共存する。これは p-e 間の組成範囲の液相を冷却すると固相 AB が析出することを意味する。p-e 間の組成範囲にある組成 s の溶媒を用いて溶融させ、組成 AB の原料棒と種結晶との間に溶融帯を形成したあと、原料棒と種結晶を鉛直下向きに移動させる。溶融帯の原料棒側の固液界面付近では、原料が溶融帯に溶解し、それと同時に溶融帯の種結晶側の固液界面付近では、溶融帯から化合物 AB が析出する。溶融帯を定常的に連続移動させることで溶融帯の組成は変化せず、分解溶融化合物 AB の単結晶が育成できる。
フラックス法 (Flux method)
フラックス法とは、高温で融解している無機化合物や金属などを溶媒とし、その溶媒を用いて結晶を育成する方法である。フラックス法による結晶育成では、高温のフラックスに溶質を溶かし、冷却またはフラックスの蒸発によって過飽和溶液から目的の結晶を析出させる。
フラックス法の特長は、目的結晶の融点よりもはるかに低い温度で結晶成長するため、高温で分解する物質や高融点の物質などの結晶を育成することができる。また装置・操作が簡便であることである。図3にフラックス法の概略図を示す。
図3 フラックス法の概略図
新規単結晶育成方法の開発
FZ 法および TSFZ 法では、他の結晶育成方法と比較して、育成結晶の大口径化が難しい。そこで、FZ 装置を改良することで大口径の単結晶育成を行っている。通常の FZ 装置では、回転楕円面鏡の一つの焦点である集光位置は原料棒と育成結晶の回転軸上の溶融帯中心にある。また集光位置ともう一つの焦点である赤外線ランプ位置とが同一水平面内にある。改良型 FZ 装置では、集光位置や赤外線ランプ位置を移動させることができ、集光位置による溶融帯表面近傍への加熱効果や回転楕円面鏡の傾斜による加熱効果を調べることで、育成結晶の大口径化が可能となる。図4にFZ装置を比較した模式図を示す。
図4 通常の FZ 装置と改良型 FZ 装置の模式図