研究内容 更新日:2000年9月11日


 酸化物高温超伝導体は単結晶化することにより、諸物性の異方性や精密な物性測定が可能となり高温超伝導体の超伝導発現機構解明のための物性研究には不可欠であるともに、新たな機能性を有して次世代の高速電子デバイスやメモリー素子などへの応用に期待されています。本部門では、単結晶育成技術をもとにして、酸化物高温超伝導体単結晶の育成,合成および物性に関する基礎研究から応用研究までを一貫して行っています。

 

主な研究テーマ

(1) TSFZ法による酸化物高温超伝導体の高品質大形単結晶の育成

(2) 酸化物高温超伝導体単結晶膜の液相エピタキシャル成長

(3) 高温超伝導体薄膜作製用基板単結晶の探索と育成

(4) 新超伝導物質の探索および超伝導関連物質の単結晶育成

(5) 酸化物単結晶の融液成長における強磁場効果


(1) TSFZ法による酸化物高温超伝導体の高品質大形単結晶の育成

 酸化物高温超伝導体の単結晶育成に有用な状態図の作成から単結晶育成までを系統的に研究し、精密物性測定のためのマスター・サンプルとなりうる良質単結晶を育成しています。そして、国内外の研究機関との共同研究により精密物性測定を行っています。

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(2) 酸化物高温超伝導体単結晶膜の液相エピタキシャル成長

 酸化物高温超伝導体の高品質単結晶膜は、層状高温超伝導体単結晶に特有な低周波プラズマ励起を応用した超高速LSIデバイスへの実用化が期待されています。本部門では、La2-xSrxCuO4酸化物超伝導体の単結晶膜を液相エピタキシャル成長法により作製しています。

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(3) 高温超伝導体薄膜作製用基板単結晶の探索と育成

 良質な高温超伝導体薄膜を作製するうえで、高温超伝導体との格子整合性がよく無双晶の基板結晶が求められています。超伝導体薄膜作製に適した基板結晶としてK2NiF4型構造やペロブスカイト型構造を有する複合酸化物やそれらに異種元素を置換した酸化物の単結晶をフローティングゾーン法により育成しています。

(4) 新超伝導物質の探索および超伝導関連物質の単結晶育成

酸化物高温用伝導体の元素置換や高温高圧処理による超伝導特性への効果を調べています。また、超伝導関連物質としてCuGeO3などの低次元系複合酸化物の単結晶を育成し、国内外の研究機関と共同研究してそれらの物性測定に関する研究を進めています。

(5) 酸化物単結晶の融液成長における強磁場効果

本研究部門は、日本学術振興会の未来開拓学術研究推進事業・複合領域「強磁場下の物質と生体の挙動」の研究プロジェクト「強磁場下での溶融凝固・焼結・結晶化における新規効果」(プロジェクトリーダー:東京大学岸尾光二教授,期間:1999-2004年)の研究協力者として共同研究を行っており、「酸化物単結晶の融液成長における強磁場効果」に関して研究している。
 単結晶育成の分野において、これまでシリコンの単結晶育成において磁場は対流抑制効果があることは知られている。最近、小さな磁化率を持つ常磁性体や反磁性体でも10T程度の強磁場において磁気浮上や磁気分離などの磁気効果を示すことが明らかになった。本研究では、酸化物単結晶の融液成長において、強磁場環境により得られる大きな磁気エネルギー、磁気力によって育成界面形状,構成元素の有効分配係数などへの影響を調べるとともに、新たな磁気効果を見いだすことを目的としている。この実験を行うため、現在、10T強磁場浮遊帯域単結晶育成装置の設計・製作を行っている。


(1') 高品質な高温超伝導体大形単結晶のTSFZ法による育成と精密物性測定

 高温超伝導体が発見されて14年経ち高温超伝導体の超伝導機構はかなり明らかにされてきているが、未だに十分には解明されるに至っていない。高温超伝導体の超伝導発現機構を解明するためには、高品質の単結晶、最新鋭高性能の実験測定装置そして最高の測定技術がそろってこそ達成される。それらの必要要素のうち、本部門は高品質単結晶育成を担当し、単結晶育成に有用な状態図の作成から単結晶育成までを系統的に研究し、マスター・サンプルとなりうる良質単結晶を育成して、物性測定に関して最新型高性能の実験装置と最高の実験技術を有する国内外の研究機関に試料提供して共同研究を進めている。

(2') 超高速LSIデバイスのための高温超伝導体単結晶の育成

 本研究部門はは、科学技術振興事業団による戦略的基礎研究推進事業・研究領域「極限環境状態における現象」の研究プロジェクト「銅酸化物超伝導体を用いる超高速デバイス」(研究代表者:東北大学山下努教授,期間:1996-2001年)の一研究チームにとして共同研究を行っており、高温超伝導体単結晶の実用化についての研究を進めている。La2-xSrxCuO4などの214系高温超伝導体は、CuO2伝導層と(La,Sr)O絶縁層が交互に積み重なった層状構造をとっていることから、その特異な構造によって新しい機能として層間ジョセフソン効果やジョセフソンプラズマ現象が発見された。そして、これらの機能を用いた超高速LSIデバイスが東北大学の立木昌教授(現:金属材料技術研究所)と山下努教授の研究グループによって考案された。層状高温超伝導体単結晶に特有な機能を応用したこのアイデアの可能性を実証するには良質な高温超伝導体単結晶が不可欠であるとともに、超伝導体単結晶の新機能性を応用した超高速LSIデバイスへの実用化が期待できる。高温超伝導体単結晶を超高速LSIデバイスに応用するためには、完全バルク単結晶や薄膜単結晶が要求されている。具体的な研究内容は、a)TSFZ法によるLa214系およびBi系酸化物高温超伝導体の完全結晶の育成,b)液相エピタキシャル成長法による高温超伝導体単結晶膜の作製、および、c)育成単結晶の応力印可や化学酸化による高品質化であり、そのおもな研究成果を下記に示す。

a) TSFZ法による単結晶育成では、現有の装置の改良や新たな赤外線集中加熱装置の開発を行い、より高品質な高温超伝導体単結晶の育成をめざしている。その研究の中で、成長速度の異方性が大きいBi系酸化物高温超伝導体では結晶形状が扁平状になるために大口径結晶が得られなかったが、その大口径化を図るために、四楕円型赤外線集光加熱炉のランプ電圧制御を独立させた非等方加熱TSFZ法を開発した。

b) ルツボを用いない液相エピタキシャル成長法として、TSFZ法を応用した赤外線加熱液相エピタキシャル成長法を開発した。そして、同方法により超伝導性La2-xSrxCuO4単結晶膜を非超伝導性のZn, Ni置換La2CuO4単結晶基板上に作製させることにより擬ホモエピタキシャル成長を実現させることができた。その結果、Sr濃度x=0.08~0.14,膜厚50~200mmのa軸配向単結晶膜を作製することに成功している。

c) 非超の化学量論組成La2CuO4単結晶をKMnO4水溶液中で化学酸化することによりLa2CuO4結晶中に過剰酸素を導入し超伝導化することに成功している。